coppelia*(sleeeeeeeeep)
自由気ままなドールライフ。お休み中ZZZ
2008'06.28.Sat
憮然と佇む古びた時計がやたらと目立つ雑貨屋の片隅に、鳥の絵をラベルに描いた青いインク瓶が置かれていた。その舗に足を踏み入れ、まず僕の視線を止めたのが、決して大きいとは云えないそれだった。
小さなインク瓶をそっとカウンターの上に置くと、それまで此方を見ることのなかった――僕が舗に入ってきた瞬間から、全く気にしている様子がなかった――主が、初めて顔を上げた。細面のその貌は、若いのか老けているのか判断が難しい。先程まで目線を落としていた手の上には、ひどく黄ばんだ本が乗っている。
要るの、と改めて訊かれ、僅かに頷くのを躊躇ってしまったのは、店主の店主とは思えない雰囲気の所為だ。此方に向けられた視線が値踏みするように頭から爪先へと移動し、含みを持った眸の色で、先程の問いを繰り返す。僕は微かに首を動かした。相手の唇の端が持ち上がる。
「なあ、君。その瓶の青色の染料、如何やって作ったか知っているか、」
否。
「少年を捕ってくるのさ。いや、誰でもいいわけじゃない。青色の要素を持っている奴でないと。…そのインク瓶に注がれた少年の写真が在った筈だ、見せてやろう。」
そう云うと、手元の抽斗を次々に開きだす。何処に仕舞ったのかを覚えていないらしい。少しすると、在った、在ったという言葉と共に何枚かの写真が並べられた。
少年の背後に写っているのは此処の時計だろう。
ではこの少年は店主の馴染みか何かだ。
「この色はこの少年にしか出せない。少年ごとに青色の濃度が微妙に違うのさ。けどまあ、インクってのは所詮水分だ。彼を哀れんで使わなくたって、結局、蒸発して徐々に減っていく。」
「では、このインクは、なくなってしまえば代えはないということですか、」
気に入った色は繰り返し買いたい性質の僕は、店主の言葉のどこかにその妙な空想の綻びがあるのではないかと、思いつきの疑問を口にした。
しかし店主は口篭ったものの、此方の意図をはるかに上回る返答をしてきた。
「ないね。ただ、空になってしまうと瓶が哀しむから、インクが切れたら次は君を注いでやれ。君もなかなかの青を持っているようじゃないか。」
彼は慣れた仕草でインク瓶を知らない外国語の書かれた新聞で包み、それを更に印度紙で出来た袋へ入れる。此方に手渡しながら更に言葉を付け足す。
「君がその瓶に己を注ぐ日が近づいたら、残っているインクで、誰かに瓶を此処へ持って行くよう手紙を書くんだ。いいな?」
僕に向けられる彼の眸は、決して空想妄想を語る者のそれではない。けれど、どうしたって信じられるわけのないその内容は、やはり彼の作ったお伽噺としか思えない。
いい加減、この空想好きの店主の相手をすることに耐えられなくなり、軽く会釈をし短い礼を述べたあと、彼に背を向けた。
外へ出る時に聴いた雑貨屋の鈴の音――扉の上部に備え付けられていたそれ――が、しばらく耳から離れなかった。
***
インク瓶は今も僕の手元に在る。
少しずつ減っていくインクを見る度、いつもあの店主の話を思い出す。あれ以来、時折、妙な気怠るさに囚われるのもすべて「そういうこと」ではないのかと、自分の怠惰に当てもない空想を理由付けてしまうのもその所為だ。
今日も瓶は何かを求めるように此方を向いている。
僕は囚われまいとしてクッションに顔を埋めた。
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